LGWANとは?メリット・デメリットやLGWAN-ASPの活用事例を解説
2022.12.26投稿、2024.10.10更新
地方自治体や政府機関で取り扱う情報には機密性の高いものが多く、相互に連絡を取り合うにあたって閉じたネットワークが必要です。そのために構築されたのが「LGWAN」です。LGWANは、メールや掲示板の機能を持つ連絡ツールとして、また各種社会保障や税情報などの連携システムとしても機能しています。LGWANを介した行政サービスを提供するLGWAN-ASPにも、さまざまな種類があります。
本記事では、LGWANやLGWAN-ASPの概要やメリット・デメリットなど、基本的な知識について解説します。
LGWAN(総合行政ネットワーク)とは
LGWAN(総合行政ネットワーク)とは、地方公共団体の組織内ネットワーク(庁内LAN)を相互接続するネットワークのことです。地方公共団体間の通信や、地方公共団体と政府機関の間の通信を行っています。インターネットから分離された行政専用のネットワークで、地方公共団体間の回線を集約することで高度なセキュリティを保ちつつ、コストを削減して運用することに成功しています。
2001年に全都道府県で構成される協議会によって設置され、2003年に全市区町村が接続したことで本格運用が始まりました。2014年からは、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)に移管されています。通信されている主な内容は以下のとおりです。
- 地方公共団体間または地方公共団体と政府機関の間のメール送受信
- マイナンバーを使った税情報、社会保障の給付状況などの情報連携
- 地方税の電子申告の受付、国税庁から地方公共団体への申告情報の提供
- マイナンバーカードを活用した各種証明書のコンビニ交付
- 防災・人命にかかわる緊急情報(J-アラート)
LGWANの基本方針
LGWANは、以下の8つの基本方針に沿って構築されました。
- すべての地方公共団体を収容できる、行政団体に閉じたネットワークである
- 高度なセキュリティを確保する
- 情報通信分野における、標準的な技術を採用する
- 政府共通ネットワークと相互に接続する
- すべての地方公共団体が、現実的に負担可能な費用の範囲内で運用する
- 各市区町村や都道府県におけるネットワーク規模、多様な情報化の進度や手法の違いを吸収する
- 地方公共団体が持つ既存設備を有効活用する
- 電子メールや掲示板、メーリングリストなど、業務の横断的サービスを提供する
参考:総合行政ネットワーク(LGWAN)の概要|地方公共団体情報システム機構 総合行政ネットワーク全国センター
LGWAN自体は地方公共団体間の回線を集約したネットワークであり、各府省庁間の閉域網(クローズドネットワーク)である政府共通ネットワークとは直接つながっていません。しかし、LGWANと政府共通ネットワークが相互に接続することで、地方公共団体と政府機関が高度なセキュリティを確保した閉じたネットワークのなかで通信を行えます。
LGWANの仕組み
LGWANには、以下の構成要素があります。
- LGWAN接続ルータ
地方公共団体が設置し、地方公共団体の庁内LANとLGWANを接続します。
- 都道府県ノード
都道府県に設置され、管内の市区町村の回線とLGWAN-ASPサービス提供者のアクセス回線を収容・接続します。
- 東日本・西日本ポイントオブインターフェース(POI)
LGWAN上で基本プロトコルのサービスを提供したり、不正アクセスを検知・監視したりしています。
- 全国ネットワークオペレーションセンター(NOC)
LGWAN全体を運用・管理する施設設備です。
現在のLGWANの構成は、「第4次LGWAN」と呼ばれています。第4次LGWANに接続するためには、LGWAN接続ルータから都道府県ノードを使う方法と、LGWAN接続ルータから直接LGWAN網に接続する方法の2つがあります。
また、都道府県ノードを介して接続する場合、アクセス回線には「都道府県WAN」と「その他の回線」の2種類があります。都道府県WANは都道府県が独自に整備するネットワーク回線網で、その他の回線はLGWAN-ASP通信サービスとして審査・登録された回線サービスです。
LGWANで利用できる基本サービス
LGWANでは以下のようなサービスを利用することができます。
- LGWAN掲示板およびメーリングリストサービス
掲示板では記事の投稿、メーリングリストサービスではメールの送信・閲覧など、セキュリティを確保しながら各自治体間で効率的に情報共有やコミュニケーションが行えるサービスです。
- LGWAN接続団体等情報共有管理サービス
業務効率化を目的に、LGWAN接続に関する各種申請・処理などの手続きをオンライン化したサービスです。
- 地方公共団体組織ディレクトリサービス
以下の4つのサービスで構成されており、全国の地方公共団体の組織構造や役職、担当者の情報を統一された形式で整理・保管し、行政業務の効率化に貢献しているサービスです。
- 地方公共団体情報共有データベースサービス
- 共通認証サービス
- 地方公共団体アドレス帳サービス
- 業務支援サービス
- 証明書発行等申請管理システム
証明書の発行、更新および失効の各申請に関わるサービスで、電子文書の真正性の確保や業務効率化に貢献しています。
参考:https://www.city.mizunami.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/002/737/besshi1.pdf
LGWANの活用状況
LGWANの活用状況として、総合行政ネットワークが調査した平成28年度のLGWANの利用状況を紹介します。
- LGWANメール送受信件数:約1億7,710万件
2016年度のメール送受信件数は前年度比で約1,880万件増加し、10年間で順調に増加しています。内訳として76.3%がLGWAN接続団体および都道府県ノード接続のLGWAN-ASP、20.5%が政府共通ネットワーク、2.9%がPOIへ直接接続のLGWAN-ASP、0.3%がLGWAN運営主体などです。
- ポータルサイトなどウェブアクセス件数:約604万件
前年度比で約126万件の減少が見られます。基本アプリケーションへのアクセス自体が減少するなど、全体的にアクセス件数が減少しています。しかし、LGWAN-ASPポータルサイトへのアクセスだけを見ると約2倍に増加しており、LGWAN-ASPサービス提供者が増えたことが影響していると考えられます。
- LGWANヘルプデスク対応件数:10,879件
LGWAN接続団体およびLGWAN-ASPサービス提供者からの問い合わせなどの対応件数で、前年度比で2,058件増加しました。暗号化通信用などの証明書発行手続き、自治体情報システムの強靭化、セキュリティクラウド対応の実施、手続きや相談などの問い合わせが増えたことがわかっています。
※各グラフ画像は月間J-LIS 平成29年7月「平成28年度のLGWANの利用状況」より引用
LGWANのセキュリティ
LGWANでは、以下の5つのセキュリティ対策がなされています。
- ファイアウォールによる防御
LGWANの各種サーバー群を、ファイアウォールで侵入の脅威から防御します。
- 通信経路の暗号化による盗聴防止
LGWANの通信経路は暗号化され、盗聴防止対策がなされています。
- 侵入検知機能(IDS)
地方公共団体間、都道府県ノード間での直接通信を制限し、すべての通信をIDSで監視することで不正アクセスを検知します。
- SOC(Security Operation Center)の設置
専門家による24時間365日のセキュリティ監視が行われています。
- 公開鍵暗号方式(PKI)による組織認証
認証技術により、情報の「盗聴、改ざん、なりすまし、事後否認」を防止します。
LGWANを利用するメリット・デメリット
LGWANを利用するメリット・デメリットを解説します。
LGWANのメリット
- 行政事務の効率化
地方自治体や政府機関の間での情報の共有や交換がスムーズになり、行政事務を効率化できます。LGWAN以前は、自治体自身がシステムを構築し、保守・運用しなくてはなりませんでした。LGWANではあらかじめ用意されているASPを利用できるため、従来のシステムに比べて構築や保守の負担が軽減されます。
- 重複投資の抑制
LGWANは情報通信基盤であり、汎用性があります。地方自治体のネットワークにおいて、投資する設備やシステムをまとめられるため、重複して投資することがなくなり、コスト削減につながります。自治体ごとに個別で回線を契約したり、回線に合わせた端末を購入したりする必要がありません。
- 住民サービスの向上
政府機関と自治体の連携が進めば、生活に必要な行政情報の提供や届け出手続きなどの電子化が進み、住民に提供されるサービスの質も高まると期待できます。セキュリティが確保されていることから、盗聴などによって重要な情報が漏洩するのを防げるでしょう。災害時も想定して環境整備されており、地震などの緊急事態が発生しても業務継続が可能です。
LGWANのデメリット
一方、LGWANを利用する以上、インターネットとネットワークが分離されていることによる手間増加は否めません。LGWAN上でやりとりされたファイルをインターネット上でやりとりしようとする場合、あるいはその逆の場合には、ひと手間生じることがデメリットといえます。
次期LGWANについて
次期LGWAN(第5次LGWAN)とは、2019年から運用開始された第4次LGWANに、より強固な情報セキュリティ対策を行ったものです。
現行で運用されている第4次LGWANは、2026年3月(令和7年度)をもって廃止され、以降は第5次LGWANが適用されます。
次期LGWANの要望と論点
- 自治体からの次期LGWANへの要望
セキュリティ確保と利便性向上を両立させることが、自治体からの要望として挙がっています。人口の少ない小規模の自治体を含むすべての自治体においてセキュリティの確保がより重要となり、さらにLGWAN接続において、パブリッククラウド上のサービスを簡単に利用できることも自治体職員の業務効率を下げないために重要です。また、各層を安定的に運用できること、LGWAN-ASPなどが利用できることも引き続き重要です。
- 次期LGWANの論点
次期LGWANにおいて、ガバメントクラウド上のシステムとの効率的な接続の仕組みと、その安全性が大きなポイントです。また、自治体のデジタル化を促進する上で、ネットワークの柔軟性やコスト削減も課題となります。
※次期LGWAN(第5次LGWAN)については、記事執筆当時2024年10月10日時点での情報です。
LGWAN-ASPとは
LGWAN-ASPとは、利用者である地方公共団体に対し、LGWANを介して各種行政サービスを提供するものです。例として、電子申請システムやグループウェアなどが挙げられます。地方公共団体が個別にシステムを開発したり回線を整備したりせずに行政サービスを共同利用でき、LGWANを介することで機密性の高いやりとりが行えるのが特徴です。
LGWAN-ASPの種類
LGWAN-ASPには、以下の7つの種類があります。
- アプリケーションおよびコンテンツサービス
電子申請や電子入札などに関する各種アプリケーション、情報コンテンツなどを提供します。
- ホスティングサービス
アプリケーションを稼働させるサーバー機器の提供や、運用管理を行います。
- ファシリティサービス
ホスティングサービスを構成する機器の設置スペースや、そこでの電源・空調など設備を提供します。
- 通信サービス
ホスティングサービスの構成機器をLGWANに接続するための専用回線を提供します。
- ネットワーク層および基盤アプリケーションサービス
IPアドレス、ドメイン名の管理、基本プロトコル群、アプリケーション基盤を提供します。
- LGWAN外部電子契約サービス
LGWAN及びLGWAN-ASPを経由して、地方公共団体が安全に電子契約を利用できるようにするためのサービスです。
- LGWAN外部閉域利用サービス
クラウドサービス事業者が地方公共団体向けにサービスを提供するための仕組みで、クラウドサービスに設定された閉域の利用領域からLGWAN及びLGWAN-ASPを経由してサービスを提供します。
このうち、LGWANに接続する地方公共団体が直接ユーザーとして利用するのは「アプリケーションおよびコンテンツサービス」のみです。「ホスティングサービス」や「ファシリティサービス」はアプリケーションサービス提供者が、「通信サービス」はホスティングサービス提供者が利用するサービスです。「ネットワーク層および基盤アプリケーションサービス」は、LGWANの利用団体やLGWAN-ASPの提供者が運用・管理面で利用します。
LGWAN-ASPのサービス事例
LGWAN-ASPのサービス事例にはさまざまなものがあります。ここでは、代表的な事例を3件紹介します。
- 施設利用サービス
スマートフォンの二次元コード読み取りを使って施設利用手続きが行えるサービスです。利用者登録や利用申請をスマートフォン経由で電子化し、サービスの向上や内部事務処理の負担軽減につなげています。
- 情報発信プラットフォーム
簡単な入力でアクセシビリティやユーザビリティに配慮した情報発信ができます。入力したデータは複数サイトやシステム、媒体へとマルチに情報伝達が可能です。さまざまなライフシーンに合わせて、地域住民に必要な情報を届けられます。
- 公的機関の支払い管理システム
支払い管理システムは、口座振替やコンビニ収納などさまざまな収納方法に対応しているほか、督促・催告の管理もできます。公的機関における事務負担の軽減につながります。
行政や自治体業務には、高度なセキュリティ対策が実現できるLGWAN-ASPの活用を
LGWANは、高いセキュリティを確保できる閉じたネットワークです。インターネットと完全に分離しているため、インターネットを介して情報が漏洩するリスクがありません。また、通信の暗号化や専門家による24時間365日の監視により、非常に高度なセキュリティ対策がなされています。LGWAN網を介して使える行政サービスであるLGWAN-ASPを、さまざまな企業が提供しています。
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